タイワンリスが片瀬山・湘南地域で増えています

片瀬山住宅地周辺は森にかこまれています。森の近くでは色々な動物の鳴き声が聞こえてきます。ウグイスやガビチョウの声に混じってカッカッカッという声も聞こえて、これがタイワンリスの鳴き声です。姿を見ることも少なくありません。小さな体で走り回る姿はかわいいのですが、実はタイワンリス(クリハラリス)は海外からやってきたもので、日本の生態系に影響を与えるとして特定外来生物として指定され、生息範囲の拡大を防ぐことになっている生きものなのです。(国立環境研究所特定外来生物データベース)
片瀬山ではどんな風に生きているのか?
片瀬山五丁目の方が最近よく見る様子を撮影されて、提供して頂きました。
彼らは電線の上を移動したり、道路を走り渡ったり、森や庭木の枝の間を飛び移ったりして森も住宅地も道路の上も縦横無尽に移動しています。


(片瀬山五丁目)


タイワンリスは今、どこにいるのか?
現在の生息域は、下図のようになっています。
色々な機会に海外や国内の別の場所から移ってきた場所に居ついたという形になっています。

国立環境研究所外来生物データベース確認状況図(詳細版)
現在生息地の拡大が顕著なのが、我々の住む「鎌倉から三浦・湘南・横浜にかけての地域」で、色々な問題をはらんでいるのです。
片瀬山では迷惑をかけているのか?
先程の写真を撮影した方は、「この近所では特に被害の話は聞いてないですよ」とおっしゃっていましたが、「庭にある小鳥用の餌を横取りされることが時々あるんですよね」とのお話でした。
しかし、別の丁目の方からは「うちの太陽光発電の発電量が今夏すごく落ちたので調べてもらったら、パネルの下にリスが巣を作っていて、さらにケーブルをかじっていて断線していたと分かった」というお話で、写真を提供して頂きました。

またさらに別の丁目の方からは、「ネット回線が不通になったので調べてもらったら、電信柱と家を結ぶ光ケーブル線がリスにかじられて切れていた」という話を聞きました。やはり実害も出ているのです。
一般的にはタイワンリスはどんな迷惑をかけているのか?
片瀬山ではかわいさを愛されつつ迷惑もかけながら生きているタイワンリスですが、最近、鎌倉や横浜で増えすぎたタイワンリスの被害報道も目にするようになりました。例1、例2、例3
そこで取り上げられる被害は
❶農林業被害
タイワンリスは広葉樹林に住み、果実や種子を食べ、餌の少ない時期は樹皮を剥いで樹液をなめたりします。そして繁殖力が強く数が増えます。このために三浦半島では果樹の被害が拡大しています。過去大繁殖した伊豆大島では名産のツバキの実や幹をかじって問題になりました。

環境省の特定外来種クリハラリスのページから

クリハラリス情報ネットのホームページから
❷家屋侵入や設備損壊
戸袋に巣を作ったり、家屋をかじって穴をあけたり侵入したりします。それに伴いダニやノミが家屋で発生したりします。電線をかじった断線やショートの被害の例もありました。最近話題になっているマダニが媒介する「重症熱性血小板減少症候群」SFTSの被害も心配されています。
❸生態系への影響の心配
環境保護団体が気にしているのは、生息域が拡大して、日本に昔から住んでいる多くの動物の生態に影響を及ぼす可能性があることです。例えば、丹沢山地は日本固有種のリス類三種(二ホンリス、モモンガ、ムササビ)の貴重な生息地でそこにタイワンリスが侵入すると餌や営巣場所が奪われるために彼らに非常に大きな影響が出ると予想されています。
神奈川県の防除対策
そんなわけで、神奈川県では外来生物法に基づいて、昨年3月に神奈川県クリハラリス(タイワンリス)防除実施計画(←すごく詳しい)を策定して対策に乗り出しました。
神奈川県では、下図のように県内を3つのエリアに分けて防除方針を決めています。(神奈川県のタイワンリス防除のページ←一般向け説明)
高密度地域(赤):定着しているので増えすぎないように被害の低減を図る区域
分布拡大区域(オレンジ):地域での根絶(!)を図り生息域の拡大を防ぐ地域
藤沢市はここにあります。
侵入警戒区域(緑):地域に定着させない地域

また、神奈川県の機関が参加しているNPOがあり、様々な生息・被害情報のまとめや情報提供をしています。(→クリハラリス情報ネット)タイワンリスの丹沢山地への侵入を阻止しようという強い意思が見えます。
鎌倉市の対策
鎌倉市は今年7月に「鎌倉タイワンリスニュース」を発行し、情報発信を開始しました。この中では、平成12年から開始した鎌倉市の防除活動(檻の貸し出し等)による捕獲動向が示されています。ここ2年捕獲数が激増していることがわかります。この2年では2000匹/年を超えています。

藤沢市の対策
藤沢市も鎌倉市と同様に、申請を出して登録し、捕獲檻を1~3か月貸し出してもらい、捕獲後は、業者が引き取ってくれる(殺処分)という仕組みがあります。(担当環境保全課)→捕獲檻の貸し出しについて これはアライグマ・ハクビシンと同様の仕組みです。
タイワンリス(クリハラリス)について、こうした被害や防除対策についてはあまり知られていないのが実情です。ただかわいい、と言って見ているだけにはいかない現状にあります。彼らにとってはますます厳しい世の中なのですが、彼らの先祖も人間の都合で連れて来られて、その中で過酷な環境を生き延びてきたタフな動物です。次回はその歴史をたどってみましょう。参考にした資料は次号の最後にまとめて示します。
