【始まりを探して】片瀬山近隣ネットその3

地道な工夫と努力の積み重ねで定着

前回(その2)は片瀬山近隣ネットがどのように誕生したか?でしたが、今回は蒔かれた種が定着し育っていくための地道で着実な活動を、伝道師というもいうべき役割を果たした3丁目のKさんにお聞きしました。

2006年に片瀬山防災会で実行が決定され、2007年には各丁目でアンケートが開始されたのですが、3丁目ではなかなか思ったようには進んでいなかったようですね。Kさんはいつからかかわるようになったのですか?
Kさんーー2009年頃からです。初めの印象では、これはうまくいくのかなあ という感じでした。当時は近隣ネットボランティアの募集をした段階だったのですが、皆さん「災害時に在宅していたら手伝うよ」という漠然とした理解で、具体的に誰が何をするのか?普段から何か準備するのか?等というイメージが薄かったのです。まずは災害時に自治会の班長を助ける具体的な内容をはっきりさせる、等から手を付けていきました。

2011年3月11日夜の片瀬中学校体育館に避難した人達

そして2011年東日本大震災を迎えたわけですね。
Kさんーーはい、片瀬山近郊では大きな直接の被害はなかったのですが、片瀬中学には片瀬から多くの人が避難してきて、一方で片瀬山住民の多くは当日帰宅できない家族の事で頭が一杯で、それには気が回らなかったのです。そうした体験を経て、真剣に「組織として本当に動く近隣ネット」にする必要を感じました。

具体的には近隣ネットリーダーをもっと増やし、その人たちの具体的な意見や知恵を集めることで参画感をもってもらい、災害時に本当に動く組織にしたい と思ったわけです。この年から数年かけて、手伝う意思を示した人に声をかけて、膝詰めでひとりひとり勧誘活動をしたわけです。そうした活動を経て、2013年には班の数より多くの人に近隣ネットリーダーになってもらいました。

上:3丁目近隣ネットリーダーの数の推移(2009-10年は不明)と、下:仕組み作りのあゆみ(3丁目自治会定例会議事録等から編集部調べ) 3丁目の班の数は30で以降はその数をずっと上回り続けている

そのリーダーの確保と並行して仕組みを整備されたのですね。
Kさんーーここからはそうやって集った皆さんとの共同作業でした。大きく言うと3つのポイントがあると思います。いずれも「平時の活動が災害時に役立つ」という話です。これらを少しずつ何年もかけて進めました。(上図参照)
1 近隣ネットリーダー会議の設立と三丁目自治会組織との連携
当時は自治会との連携が弱く、近隣ネットは「災害時の組織」と思われていました。そこで、三丁目の近隣ネットリーダー会議を設立して代表を決め、自治会の毎月の定例会に代表が準役員として出席する事にしました。

2021年安否確認訓練の様子 近隣ネットリーダーのベストを着たリーダーが各班からの報告を取りまとめ

これによって、自治会の活動と連携した平時の活動を行えるようになり、さらにその情報を自治会ルートで全世帯に伝える事ができるようになりました。例えば安否確認訓練の改善を主導して、今の年2回の活動に落ち着いたわけです。安否確認訓練での自治会班長(毎年交代)と近隣ネットリーダー(継続)の協力関係も明確になりました。3丁目の仕組み構築の鍵になりましたね。

夕涼み会では「こんなに子供がいたんだ」と驚く人出があるのですが、そこで防災PRしてますよね
Kさんーーそうなんです。この場がとても重要な活動場所になっています。
2「夕涼み会」(夏の公園での夏祭りイベント)を災害時訓練に触れる場にする
夕涼み会は従来住民交流を主目的に毎年開催されてきました。この場では高齢者や子供を含む幅広い世代が集まってきて、天気がよければ300人近い人が夕方のひと時を過ごします。その際、皆でテントを建て、リヤカーを組立てて荷物運びしたりするわけです。これを災害時訓練という位置づけにしました。車いすでの避難を想定した介助体験、消火器使用体験、倉庫の確認、非常食試食・販売等も行うようにしました。こうして近隣ネットの認知も高まり、ネットリーダーの皆さんのモチベーションも高まりました。こうした取組みはリーダー会議で出た様々な改善アイディアを反映しました。

「テントの建て方マニュアル」より 近隣ネットメンバーの指導の元、皆の協力でテントを建てる
使用期限の来た消火器を実際に使ってみる
車いす避難を助ける説明 段差の越え方、使用者の移乗のやり方等の説明と介助体験

3 近隣ネットに信頼感をもってもらえるアンケート情報管理
家族構成、支援の必要性に関する情報は最も秘匿性の高い個人情報です。ですから2年に1回のアンケート調査には高い信頼感がないと書いてもらえません。アンケート及びその結果をまとめた地図の管理については細心の注意を払い、手順や様式の改善を図りました。アンケートの右肩に「取扱注意」と赤く書く事も書く人の安心感という意味で重要です。この書類を間違いなく配り、記入の上密封して班長に手渡しあるいは投函してもらいますが、班長宅を間違える方、名前を書き忘れる方など様々な方がいるので、そうしたトラブルを予防するノウハウを詰め込んでいます。

近隣ネットアンケートの説明用記入見本
左 配布用封筒 右 回答後返却回収用封筒
記入者名・提出先班長名を書いてお渡しする

回収率はこうした努力の結果として、96.8%(2021年)を数えています。この結果をブロックごとに狭い範囲に分割して地図上に示し、助ける人・助けてほしい人がすぐわかるようにして、関係する範囲の人だけで共有するようにしています。

アンケート結果を反映する地図のイメージ これを必要な範囲の人だけが持つ

レポーターの視点 :2007年から一斉にスタートした「片瀬山近隣ネット」の仕組みづくりは、紆余曲折を経て、ばらつきはあるものの多くの丁目で運用が続いています。その中で、前回の記事でのX印のついていたひとつが3丁目でした。しかしKさんたちの地道な活動によって今では一番定着していると言われるようになりました。住民の意識の変化等に合わせて今後も手直しをし続けていく必要があると思いますが、近隣ネットリーダーの知恵を集める仕組みができていれば、それは可能だろうと思いました。(Reported & Studied By S)
◆◆◆◆【始まりを探して】シリーズコンセプト
片瀬山ができて50年以上たちました。長い間に少しずつ整備されてきた施設・モノ(ハード)や仕組み・制度・活動(ソフト)等の始まりの時に、どんなことがあったのか、どんな思いがあったのか?今に残るモノ、資料、証言などを調べて伝えることで、その価値や将来について考えるシリーズにしたいと思います。ご期待ください。
【本シリーズからのお願い】片瀬山に関係する古い写真や資料をお持ちの方はお知らせください。例:片瀬山のパンフレット、周囲の様子がわかるスナップ写真、学校・幼稚園・プール・公園等の写真、バス等公共機関等の写真、当時の新聞記事、自治会の資料、卒業アルバム等古いものであればあるほどありがたいです。皆様のご協力をお願いいたします。
連絡先メールアドレス: