原っぱに少しずつ家が建っていく
前回に掲載した1968年第2-3工区の広告（3月）の後、順調に造成は進んでいきました。そして、その年の秋に住宅地全体を撮影したのが下記三井不動産パンフレットの写真です
造成地は段々の原っぱ
このころ地上での風景はどのようなものだったのでしょう。Reporter=私（当時中学生）の家に建築予定地（3丁目）からのほぼ同時期の写真が残っていました。段々の敷地には電信柱が目立ち、洋芝の種がまかれて緑の草原でした。家が多数建つまではこの草原にたくさんのヒバリが巣をつくり、巣の上で鳴くヒバリの声がうるさいくらいでした。大谷石の石組みは真新しくて美しく子供心に新しい開拓地にやってきた感じがしました。
交通の不便さ
私の家族は1969年（昭和44年）7月に入居しました。交通はまだ不便で、藤沢駅との間は藤ヶ谷バス停まで大坂を歩く必要がありました。週休二日制もまだ一般的でなく、土曜日も通勤通学があり、当時の電車はまだ冷房がなかったので、超満員の「湘南電車」での東京方面への夏場の通勤は大変でした。
当初は住民が少なく、スーパーもまだありません。インフラが整ってくるのは1971年～72年あたりからです。それまでの2年程は、多くの方は徒歩とバスに頼る生活をしていました。自家用車はまだ一般的ではなかったのです。そのかわり片瀬などから御用聞きの人が各家を廻ったり、移動販売車が来たりしていました。八百屋・肉・酒・クリーニング・・等です。入居した年の夏休み中、土地を削り谷地に土盛りするために土砂を運ぶダンプカーが巻き上げる土埃と騒音があたりを覆っていました。
インフラの充実が進む
1972年5月の航空写真がありますので、それを見てみましょう。
1972年になると幼稚園、プール、モノレールの駅等が次々にできています。都市計画道路の計画地付近にはコンクリートの構築物が見えます。私の記憶では将来の道路トンネルの代わりに埋設してあったと思います。交通の不便は湘南モノレールの開通（1971年7月）でずいぶん解消されました。
この写真（1972年）の頃には片瀬山全体の分譲が完了し、住宅地としての開発は一段落しました。この後、新しい家が次々と建築され人口が増えるとともに、銀行・郵便局・テニスコート・ゴルフ練習場・・等ができ医院もできるなど、居住インフラの充実が進み現在の片瀬山の住環境に近いものになっていきました。一方でこの数年間に入居した人たちはほぼ同年代で、一斉に高齢化を迎えるという全国の郊外住宅地に共通する悩みも抱えることとなりました。
意外な暮らしやすさ
当時何が一番大変だったのか？私(=Reporter)の母親に当時の専業主婦から見た片瀬山の印象を聞いてみました。「それは何といっても、無理をしたからお金よ。それ以外だと案外不便という事は感じなかったわね。そんなものだと思っていたから。人間関係が出来上がっている所に一軒で転入する大変さでは無くて良かったわ。入居者は同じ年代で子育て中のサラリーマン家庭で、お互い知らない者同士っていうのは気楽で共感できたのよ。それで新しい人間関係を作りやすかったし、同じような境遇だからの連帯感があったと思うわね。共働きや高齢者同居世帯には不便で生活しにくかったと思うわ」。確かに、父親が仕事と通勤の過酷さに耐え、母親が不便な生活の中で子育てをした昭和の「標準家庭」モデルだったのだとは思います。こうして、今から約50年前、片瀬山住宅地での生活はスタートしたのでした。
次回は当時ここに一斉に入居した人たちの背中を押した土地価格上昇についてです。
◆◆◆◆【始まりを探して】シリーズコンセプト
片瀬山ができて50年以上たちました。長い間に少しずつ整備されてきた施設・モノ（ハード）や仕組み・制度・活動（ソフト）等の始まりの時に、どんなことがあったのか、どんな思いがあったのか？今に残るモノ、資料、証言などを調べて伝えることで、その価値や将来について考えるシリーズにしたいと思います。ご期待ください。
【本シリーズからのお願い】片瀬山に関係する古い写真や資料をお持ちの方はお知らせください。例：片瀬山のパンフレット、周囲の様子がわかるスナップ写真、学校・幼稚園・プール・公園等の写真、バス等公共機関等の写真、当時の新聞記事、自治会の資料、卒業アルバム等古いものであればあるほどありがたいです。皆様のご協力をお願いいたします。
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