最終期のパンフレットは超シンプル 販売戦略が全く変わった?
前回(その3)でご紹介した片瀬山住宅地第1期の販売用パンフレットに盛り込まれた熱量には圧倒されたのですが、それから4年たった最終期1971年1月のパンフレットはどのようなものだったのでしょうか? 今回も第1期入居の I さんのお父様が収集された最終期のパンフレットを使ったご紹介です。高解像度の画像はこちらのページでご覧いただけます。
まず表紙ですが、紙質が今までと違います。ベージュの 厚紙で落ち着いています。見開きの1ページ目は、あいさつや開発コンセプトの紹介等はなく、公害問題に囲まれた現代での豊かな生活とは何か?という問いかけ、その答えが片瀬山での生活の中に営まれています としています。それまでのパンフレットでは まだ実現していないものを必死に説明しようとしていたのが、今回パンフレットでは、今ここにある住宅地を見てください という落ち着いた立場に変化している と言えましょう。
そして次のページがもう航空写真です。すでにほとんどの区画ができあがり、家もかなり建ち始めています。1,2丁目の一部が造成中です。ここでの生活が始まっていることがわかります。
その次の見開きページはすでに建ったお宅を背景にこの地での生活を紹介する写真です。こうした生活イメージのページは第1期のパンフレットにはありませんでした。
そして、その住宅地の外側の外部環境として住民の一番の関心が高い、交通環境と教育環境を紹介しています。海岸に歩いて行けることも記されています。自家用車の交通の便については記述がなくなっています。この2ページの内容に第1期では7ページを費やしています。
そして、再びここに住んだら得られる生活の豊かさを伝えるページが続きます。これらは居住者がこの街を選んだ動機に沿って記されている感じがします。先ほどと同様、第1期ではこうした内容のページはありませんでした。
そして、ようやく出てきたのが三井不動産が力をいれたマスタープランの紹介です。この2ページの内容紹介に第1期では10ページを費やしています。
ここも同様の造成工事の説明 第1期ではこの紹介に4ページを費やしています。
そして最後の支払い方法及び環境維持のお願いです。ローンの話はなくなり、「メイト会員」という三井不動産の販売情報を優先入手できる仕組みの紹介が書かれています。少し前から、販売時の混乱防止のためにこうした仕組みが取り入れられていました。
こうして第1期、第3期、最終期のパンフレットを比較してみると、その違いに驚きます。第1期がその地域環境のすばらしさと開発コンセプト、ハードウェアとしてのレベルの高さを必死に伝えようと26ページ(表紙除く)を費やしたのに対し、第3期ではそこでの生活イメージの説明ページが出現し、最終期では第1期で訴えた内容のほとんどが簡潔な言葉のリストになってしまい、そのかわりそこでの生活イメージを訴える多くの写真に置き換わりました。そして全13ページ(表紙除く)しかありません。世の中が変わったのか、街が出現したからか、広告戦略が大きく変わったと言えましょう。
現代の不動産広告は、イメージの紹介がほとんどという時代(いわゆる「不動産広告ポエム」)ですが、そのはるかな源流がすでにここに現れているのかもしれませんが大変興味深く感じました。(Reported By S)